東西韓国語講師特別対談

韓国語をメジャーな語学に!
(12号掲載)

――韓国語は、日本語話者にとって最も学びやすいーー

韓国語講座が密かなブームになっている。アジアの言語では中国語に次ぐ人気だという。

韓国語の人気に反して、それを教える講師の絶対数とその内容には、まだまだ問題があるようだ。

『アンニョン!』12号では、東京と大阪で韓国語の講師をしてきたお二人の先生をお招きして、韓国講座の課題と今後の展望について、忌憚なくお話を伺った。

座談会参加者プロフィール
貞栄 (イ ジョンヨン):天理大学外国語学部朝鮮学科卒業。鶴橋中学校・太平寺小学校民族学級講師・布施高等学校非常勤講師を経て、現在府立勝山高等学校韓国・朝鮮語非常勤講師。轄w商事勤務

田附 和久(たづけ かづひさ):東京外国語大学外国語学部朝鮮語学科卒業。一橋大学大学院社会学研究課修士課程修了。現在都立葛西南高等学校定時制、都立北高等学校全日制で朝鮮語科非常勤講師

聞き手 申 大浩 (シン テーホ)
在日韓国青年会『ウリ韓国語講座』座長

:なぜ韓国語講師になろうと思ったのか?

李貞栄(以下、李):高校生まで韓国人であることにすごくコンプレックスがあった。学校では韓国や朝鮮に関して「弱い」「汚い」「怖い」「暗い」という情報しか得られなかった。高校生までは仲のよい友人にさえ自分の出自を明かせないほどだった。ところが大学に入って、まずは心機一転本名で通うということからスタートし、小中学校で学んだ「侵略される」ばかりの朝鮮史でなく韓国の英雄伝やすてきなドラマなどがあることを知り、楽しくなったのがきっかけで、どんどん祖国に魅かれていった。それで実際一年間韓国に留学した。それから祖国に対するイメージが百八十度変わっていったという自身の体験から「楽しい」「おもしろい」韓国・朝鮮を伝えることが大事と思い、韓国語の教員になった。

田附:朝鮮語という言語の中に高校までの受験勉強とはまったく違う楽しさを見いだせたことがきっかけだ。朝鮮語は私の知的好奇心を満たしてくれる格好の材料だった。最近口を揃えたように国際化と言っているが、詰め込みの英語なんかより、朝鮮語を学んだ方がよほど日本社会の国際化に役立つと思う。日韓の関係を教えるという意味では社会科の先生になってもよかったが、韓国・朝鮮を知るうえで過去の不幸な歴史から入るより、言葉や文化という角度から入るアプローチを仕掛けてみたかった。例えば名称一つにしても「韓国語」「朝鮮語」という呼び方があるのはなぜか?みたいな。朝鮮語や朝鮮の文化を専門に学んだ者が教員になってもいいんじゃないかという思いも強かった。

〜授業中に携帯電話、「韓国人」=「周富徳」の現実〜

申:実際にどんな授業をやるのか。

田附:私の高校では朝鮮語と中国語とペン習字が選択科目になっているが、生徒たちは仕方なく選んでいるというのが現状のようだ。最初の時間に韓国・朝鮮といって思い浮かぶものは?と質問したら「ジャッキーチェン」とか「ブルースリー」「残留孤児」「周富徳」なんていう答えばかりで、中国や香港とまったく区別できていない。語学教育以前に韓国は中国とは違う、ということを教えるのが最初の一年間の最低にして最大の到達目標だ。生徒たちにはとにかくおもしろくて韓国に興味がもてるようなものを紹介し、教材に盛り込んでいる。誰もが知っている焼き肉やキムチも「本場のカルビっていうのはな〜」みたいにあえて本物志向で紹介していくという感じで。クラスによって授業の進み具合にかなり差があるが、一学期にハングルの仕組みと日常のあいさつ、二学期に数詞を覚えさせる。助詞や語尾活用など文法的な絡みはできそうな子だけに教えるといったように、同じクラスの中でも臨機応変に対応している。

:うちは定時制高校で、在日韓国・朝鮮人と日本人が半々、そのうち在日の半数がお年寄りで年齢層は十六〜八十歳までとじつに多彩だ。授業は週二時間で朝鮮語は古典との選択科目になっている。二年間のカリキュラムで、一年目はパッチムのない文字が読めるようになり、二年目にはパッチムを教え連音化などの基本的な発音法則と日常のあいさつや基本会話をマスターさせることを目標にしている。

:教員になる前とのギャップはあるか。

田附:今の学校には教育実習で来ていたので、ある程度覚悟はしていた。朝鮮語を教える以前の問題があまりにも多いという点で。授業中にポケベルが鳴ったり携帯電話をかけたりなんていうのはざらで、正直びっくりした。去年一年間は本当に鍛えられた。

:その通りだ。「朝鮮語を教える」以前の問題が多すぎる。でもいちおう高校生だから小学生みたいに「気をつけー」ってやるわけにもいかないし。下ネタは飛び出すわ、トイレに行ったまま帰って来ないわ。正直一年目は一時期私自身が登校拒否になりかけた。

〜教育現場の認識はポルトガル語より低いハングル〜

:立場は違うが私も同じような経験をした。当時は月謝が二千円と安くてなめられてしまったせいかもしれないが、二週三週と回を重ねるごとに人数が減っていくのを断腸の思いで耐えていた。ところで授業ではどんな教材を使っているのか。

田附:すべて手製のプリントを使っている。反切表はそのままでは理解しにくいので五十音やローマ字に置き換えるなど工夫している。ローマ字がわからない生徒もおり、カタカナも利用する。試行錯誤の連続だ。市販の教材はレベルが高すぎて初心者に適しているものがないので仕方ない。

:小学校の民族学級では民促協(民族教育促進協議会)発行のウリマルテキストを使っていた。現在の高校ではこのテキストをもとにして作成したプリントを教材にしている。

:高校に韓国語教育は必要だと思うか。

:高校に限らず、義務教育の段階で韓国・朝鮮のもっとおもしろい部分や情報を教えていく必要があると思う。現在の日本の教育現場における乏しい情報、偏った情報だけで本当の韓国・朝鮮の姿を知ることなどできるはずないからだ。

田附:当然必要だ。隣国なのだから。日常よく耳にする外国語なのに実際は中国語やドイツ語、ポルトガル語なんかよりも授業に取り入れている学校が少ないのは明らかにおかしい。日本語話者にとって英語よりずっと学びやすい言語であることは、科学的にも証明されている。

:在日外国人の中で韓国・朝鮮人が最も多いのだし・・・・・・。

〜最新曲と珍島アリランのバランス〜

:現場はなかなか厳しいようだが、語学上達という点で生徒たちには具体的にどのような動機付けをしているのか。

:日本語話者にとって最も覚えやすいということを最初に強調している。次に流行の歌や映画などを紹介する。ただ、生徒の中には高齢者もおり、最新のものばかりというわけにもいかない。「珍島アリラン教えてください」なんてリクエストもあるわけで。バランスがとても難しい。正直悩みっぱなしだ。

:大阪という土地柄をよく表しているユニークな話だと思うが。

田附:生徒の朝鮮語に対する興味のなさ、という点で気苦労が多い反面、他の教科と異なり文部省の学習指導要領に縛られることがなく、自由にやれるので気楽と言えば気楽だ。生徒と友達感覚で接していられることが気に入っている。

:語学講師としてのジレンマを感じたことはないか。

:テストや行事などで全体のコマ数が年間五十時間程しかない。これだけでは足りない。語学学習は連続性がキーポイントだから。

:厳しい現場で韓国語講師を続けているバイタリティーの源は?

:まだまだ全国には自分が韓国人・朝鮮人であるということに劣等感をもっている子供たちがたくさんいると思う。その子たちの殻を破るお手伝いができるのは、実際に彼らと同じつらい思いをしてきた我々在日韓国人であると自負している。

田附:私のような日本人が一人でも増えていくことが大切だと思う。それにしても(高校の教員が)あまりにも少なすぎる現状だが、これでも(昔に比べれば)一歩前進であることに間違いはないので、現在はこれを堅守しているといった感じだ。この仕事は時代の流れからしても将来性十分だと確信している。

〜まずは韓国語講師のネットワークづくりから〜

:当面の具体的な課題は?

田附:高校における韓国語授業の設置数を中国語レベルまで引き上げることが緊急の課題ではないか。

:大阪は中国語程度では足りない。英語までとはいかなくても、英語に準ずるメジャーな語学になってもいいはずだ。

:韓国語は教育ソフトの整備・充実が最優先なのではないか。カリキュラムがファジーすぎて見えにくいと思わないか。

田附:その通りだと思う。カリキュラム作りのためには韓国語・朝鮮語教員の横の連帯を図ることが先決だ。まずは東京・大阪だけでも、教員どうしが互いの現状を知り合うことが最優先課題だと思う。

:ネットワークづくりが最優先課題ということか。この問題は在日韓国人社会の弱い点だと思う。まずは日本人とか朝鮮人とかの壁を取り払わなくてはいけない。日本人だから韓国人に引け目を感じる必要もない。自分は韓国人だから、その自負心はもつべきだと思うがそれが排他的になってはいけないと思う。ネットワークづくりの具体的なアイデアはあるか。

:以前、民俗協主催の民族講師の集いに参加したことがあるが、民促協は同胞子弟だけを対象にしており、日本人を無視した形になっていた。それは不自然で、もっと意見交換が行われるべきだと思った。

:高校の語学教育に国籍の壁があっていいわけがない。

田附:プリント一つにしてもおそらく全国的に見れば同じようなものを作っている先生が多いはずだ。全体的にはすごい浪費だ。それらを集大成して高校生用のテキストを作成することはできないだろうか。その第一歩としてまずは「講師連絡会」を実現したい。その場合、国籍は問わず、純粋な教育者の集いにしたいと思う。民族的な経験のない日本人だからこそ、見えたりできたりする部分と経験豊かな在日韓国・朝鮮人の講師が互いに補いながら協力できればすばらしいことだ。余談だが英語教員だったらおそらくこういう楽しみは味わえなかっただろう(笑)。

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