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ヘイトスピーチは「表現の自由」でも「喧嘩両成敗」でもない

ヘイトスピーチは「表現の自由」でも「喧嘩両成敗」でもない

チョンソンです。

67日、東京地裁「ヘイト団体による集団暴行傷害事件」の判決がおりたので見てきました。なんだか最近、裁判傍聴記になりつつありますね……。

 

この事件は2014815日、山口祐二郎さんという男性が桜井誠・在特会元代表やその他ヘイトスピーチを行う団体の人間に集団で暴行を受け、ろっ骨骨折や頸椎捻挫など加療2か月の傷害を負わされたというものです。201411月から12月にかけて実行犯と目される被告4名は刑事事件として立件され、すでに罰金刑が下されています。なので今回は、民事で争っていた裁判の判決でした。

 

 山口さんはかねてよりヘイトスピーチに反対の立場をとっていて、ヘイトデモへの抗議行動や執筆活動をしていたことから、ヘイト団体の人間に顔と名前が知られている存在でした。山口さんは被告らと飲食店で偶然出くわしてしまったことで殴られたのですが、山口さんのことを相手方が誰も知らなかったら、起きていなかった事件のはず。ゆえに山口さんは暴行・傷害の動機が人種差別・排外主義的動機から出たものであること、また桜井誠元会長が「山口が来たら叩き出せ」などと発言して暴力を扇動したとして、「このことはヘイトクライムである」と主張してきました。

 

 しかし裁判所は暴行傷害の慰謝料や弁護士費用としての55万円を認めたものの、判決に先立ち被告のうち1名とその金額を超える示談金をもって和解したことから、損害の補填は既になされたと判断し、請求を棄却しました。つまり排外主義思想から生まれた暴力であったことを、認めなかったのです。

 

山口さんは日本人ですから、出自や民族によるヘイトスピーチを浴びる立場にはありません。でもヘイトスピーチは特定の民族だけではなく、すべての人に関係する問題であり、反対するのは当たり前のこと。なのに裁判所は今回、彼の主張を認めませんでした。

 

山口さんは裁判後の記者会見で「単なる暴行傷害として片づけられたのが不服でならない」と言い、同席した趙學植弁護士も「裁判所が被告らの活動についてどういう認識を持っているかの、踏み込んだ判断を示さなかったのが遺憾」と悔しさをにじませました。

 

「悔しいし、差別意識に基づいた犯罪であることが認められなかったのが問題と思っています。僕は被差別当事者ではないけれど、これがマイノリティの人が起こした訴訟だったら本当に辛いと思います。今回裁判官の人と話をしていても、単なる傷害事件として片づけたいと思っていることをすごく感じましたし、ヘイトクライムについての話をしても反応が薄かったんです」(山口さん)

 

 ヘイトクライムについての話をしても反応が薄かったのは、ヘイトスピーチについての知識や意識が薄いからなのか、それとも、知ってはいるけれどあえて直視しようとしなかったのかの、どちらだったと思うかを山口さんに質問しました。すると

 

「あえて見ようとしていない感じがしました」

 

と言いました。

 

 20166月に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(平成28年法律第68号)」、いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」が施行されてから3年が経ちました。山口さんが殴られた当時からすると、ヘイトデモの回数は確かに減ったかもしれません。しかし法に関わる人たちの間でもまだまだ、ヘイトスピーチに対する関心や意識が薄いのではないかと思ってしまいました。

 

 また趙弁護士によると、被告側は(ヘイトスピーチと判断される言動は)「表現の自由」であり、アクティビストでもある山口さんとの政治的な対立を強調して「喧嘩両成敗」を主張していたそうです。

 

 ヘイトスピーチは決して表現の自由ではありません。悪口でもありません。関係性が不均衡な相手への差別扇動であり、相手の心を殺す行為です。なのにヘイトスピーチに抗議した人への暴力がただのケンカとしか見なされないなら、誰も抗議の声をあげなくなってしまいます。

 山口さんは日本人ではありますが、彼が受けた暴力は在日コリアンを含めすべての差別に反対する人に向けられたものであり、決して許されない行為だとチョンソンは思います。

 

 山口さんは控訴するとのことですので、まだまだこの裁判は続きそうです。山口さんへの暴力は差別思想に基づくものであったと認められることを願いながら、今後も追っていきたいと思います。

 

(チョンソン)

 

会見する山口祐二郎さん(右)と、趙學植弁護士。

 

前回ブログ記事 ~在日コリアン弁護士懲戒請求事件レポート~もあわせてご覧下さい→こちら

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