韓国映画の変遷を知れば、2年連続オスカー候補も納得!
アンニョンハセヨ。チョンソンです。
昨年『パラサイト』がオスカーに輝いたアカデミー賞の、2021年ノミネート作が発表されましたね。韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョン監督による『ミナリ』が入っていますが、2年連続で韓国作品が受賞するのは難しいかも。対抗馬の、アメリカ西部の路上生活者を描いた『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督も中国系なので、まったくもって読めません。個人的には何度かここで触れてきたユン・ヨジョンと、ドラマ『六龍が飛ぶ』で素晴らしいアクションを見せてくれたハン・イェリが出演しているので、ぜひとも『ミナリ』が受賞して欲しいのだけど。
今では世界中にファンがいる韓国映画ですが、20年ちょっと前までは日本でも「アジア映画好き」ぐらいにしか見られていませんでした。内容もシリアスなものが多く、大学生の頃に見せられた『族譜』という、創氏改名をテーマにした1979年頃に作られた作品は、見たあとにトラウマになるレベルで。今から約30年前に公開されヒットした『風の丘を越えて/西便制』も、素晴らしいのだけどこれがまたなんというか……な内容でした。
だから2000年に公開された『シュリ』以降の作品こそが韓国映画、と思っている人も多いのではないでしょうか。派手なアクションに大掛かりな演出、イケメンとモムチャンと美女の涙が乱れ飛んで……みたいな。でも韓国映画って、決してそれだけではないんです。
国際映画祭の30年を追った、岸野令子さんの『『ニチボーとケンチャナヨ 私流・映画との出会い方2』』(せせらぎ出版)は、まさにそんな韓国映画の変遷がわかる1冊となっています。
「ニチボー」はロシア語における「ケンチャナヨ」で、タイトルのとおり香港国際映画祭に出品されたロシア映画(&台湾&香港映画)と、釜山国際映画祭や全州国際映画祭などで出合った韓国映画をメインに、さまざまな作品が紹介されています。でもシネコンで公開されるレベルの、メジャーな作品はあんまりナシ。時代の課題を映し出したドキュメンタリーや女性監督の作品などを、監督やスタッフとの出会いを絡めながら取り上げています。
なかでもよく登場するのが、ともに60年代生まれのイム・スルレ監督とチョン・ジェウン監督です。イム監督は『リトル・フォレスト 春夏秋冬』、チョン監督は『子猫をお願い』で知られていますが、2人は2003年の『もしあなたなら~6つの視線』というオムニバス作品を監督していたことを、私はこの本で知りました。岸野さんによればこの『もしあなたなら』は、多様な生き方を認め、共生できる社会をめざすために、他者の思いや痛みを共有できる人になろうとして発足した人権委員会が制作したもので、7年に渡りシリーズ5まで作られているそう。2010年を過ぎてから多様性や他者の人権を取り上げ始めた日本の映画やドラマよりも、かなり早くから向き合っていたとは。しかも『6つの視線』には、究極のフェミニズム映画『お嬢さん』の、パク・チャヌク監督も参加しています。
韓国映画には、土台に多様性や人権への意識がある監督が多くて(もちろん、そうではない監督も多いですが)、現地の映画祭では社会問題を正面から扱ったドキュメンタリーが豊富で、そしてボランティアも含めて、若い人たちが映画祭や映画を支えていて。2年連続で韓国絡みの作品がアカデミー賞にノミネートされた理由が、わかった気がしました。そして『蝶の眠り』という映画に、ドラマ『愛の温度』や『彼女の私生活』に出演していたキム・ジェウクが出ていたことも知ったので、見てみようかなと思ったり。主演が中山美穂だったのでスルーしていたのですが、チョン・ジェウン監督の作品だったので、俄然興味がわいたのです。
自分は映画が好きだと思っていたけれど、まだまだ出会っていない素晴らしい作品が、本当にたくさんある。この本を読んでいて、そんなことを感じてしまいました。まずは岸野さんが配給を担当した、建国高等学校の伝統芸能部をテーマにしたドキュメンタリー、『でんげい』を見てみようかな。ということで今回はここまで。ではまたアンニョン。