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ハ・ジョンウも監督作で描いた「黄色い血」とは

ハ・ジョンウも監督作で描いた「黄色い血」とは

 チョンソンです。皆さんは「黄色い血」って何のことだかわかりますか?

 今では献血が当たり前だけど、戦後の日本では血液は売り買いされるものでした。しかし提供者から患者に直接輸血する従来の方式では、梅毒に感染するおそれがありました。そこで一旦保存した血液を使うようになったのですが、今度は注射針の使いまわしによる、肝炎が蔓延するようになったのです。

 その理由は商業血液銀行と呼ばれる、売血業者の血液収集方法にありました。自分の血をお金に換えるというのは、自分の一部を売り物にするということ。だから血液を売る人は大抵お金に困っていたし、売血業者もそれを承知の上で買い取っていました。彼らは総じて健康状態や衛生状態が悪く、肝炎ウイルスの感染リスクも高かった。そして新たな血が作られるまでには時間がかかるのに、月に何度も売りに行くためひどい貧血で倒れる人も多くいました。また売血を繰り返す人の血は赤血球が薄くなり、黄色い血漿ばかりが目立つようになるため、これを「黄色い血」と呼んで蔑んでいたのです。

 

 売血業者を徹底的に糾弾し、売血から献血への転換に一役買ったのが、1962年から読売新聞紙上でおこなわれた『黄色い血追放』というキャンペーンでした。担当した記者の故・本田靖春氏は読売新聞社を経てフリーのジャーナリストとして活躍しましたが、彼が生まれたのは1933年の京城。つまり11歳で終戦を迎えるまで、植民地時代のソウルで過ごした日本人でした。そのため彼は自分が支配する側の人間だったことを生涯忘れず、『私のなかの朝鮮人』『私たちのオモニ』など、朝鮮半島や在日をテーマにした作品を遺しています。

 

 なんでこんな話を長々と書いたかというと、俳優のハ・ジョンウが監督した映画『いつか家族に』(12月22日公開)は、この売血が物語のカギになっているからです。

 

 映画の舞台は1953年、朝鮮戦争が終わったばかりの忠清南道の公州。なので景色はそこそこのど田舎です。

 ハ・ジョンウ扮する労働者のサムグァンは、町で一番の美女のオンナンに一目ぼれし、彼女を恋人から略奪して結婚します。3人の息子に恵まれて幸せに暮らしていたものの、11歳の長男・イルラクがオンナンの元恋人の子と知り、以来イルラクに辛くあたるように。理不尽な大人に振り回されながらも、それでも自分を慕うイルラクを目にし、いつしかサムグァンは彼との絆を取り戻します。しかしその矢先、思いもよらない事態が起きて……というストーリーです。原作は『血を売る男 許三観売血記』(河出書房新社)という中国文学で、タイトルにあるように許三観は、ことあるごとに自分の血を売ってお金に換えます。なので映画の中でも許三観=サムグァンは、何度も血を売ります。最初は自分のために、次第に家族のために血を売るようになるのですが、それは自分の身を削る行為でもありました。

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 取材のために山谷に住み、労働者とともに血を売っていた本田靖春氏もC型肝炎にかかり、肝がんまで進行しました。本田氏は自著の中で肝がんについて「取材によって得た記念メダル」と胸を張っていたものの、身体を蝕む原因になったことは事実です。そして本田氏も「血液は生きた細胞で、いわば命の象徴である。本来、売り買いしてはならないものではないか」と言い遺しています。しかしそれでもサムグァンには、血を売らなければならない理由があったのです。それは……ぜひ映画を見てください。

 

 原作と比較するとサムグァンは三観よりも中盤までイルラクを突き放し気味で、オンナンは玉蘭よりもイルラクに愛情を注いでいます。原作ではヤマ場に文化大革命が登場しますが、映画はその要素を取り除いた分、純粋な家族の物語に収斂されています。ちなみに韓国では2015年に公開された作品だからか、2017年にすい臓がんで亡くなった名女優のキム・ヨンエがカメオ出演しているのも涙もの。あと言いそびれましたが町一番の美女のオンナンは、ハ・ジウォンが演じています。

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 ハードな役が多い印象のハ・ジョンウですが、自身が撮りたかったのは、血と愛に満ちた家族の物語だったとは……。ハ・ジョンウの意外な一面が垣間見られる作品ですが、見終わったあとは何よりもまず、肉まんが食べたくなるはず。ハ・ジョンウ愛よりも肉まん愛が勝ってしまうなんて! ということで見た後は肉まんを求めに、ぜひ寄り道して帰ってください。では少し早いですが、よいお年を。

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(チョンソン) 

 

映画『いつか家族に』公式ホームページ→こちら

※上映場所や時間は、公式ホームページをご覧ください

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